踉めきつ又踉めきつ庭に立てば秋空高し獄の昼過ぎ

獄窓41

返り咲き庭の山吹三ツ五ツ佇みて思ふ己が運命を

獄窓42

秋たける獄にかなしりんりんと夜すがらすだく鈴虫の音に

獄窓43

鈴虫よさあれかこつな我もまた等しき道を辿りつゝあり

獄窓44 雑詠3

電燈の瞬基きながら消え行くを見れば我が胸かなしく慓ふ

獄窓45

誰がために思ひ悩むか愁ひげに首うなだれて咲くコスモスの花

獄窓46

語れかし我にも情ありコスモスよ汝が胸のかなしき秘密を

獄窓47 雑詠6

ホイットマンの詩集披けばクロバアの押葉出でたり葉数かぞふる

獄窓48 雑詠7

四ツ葉クロバア手触り優し其の心誰が心とぞ思ひなすべき

獄窓49

女看守の火を吹いて焼くめざしのにほひ鼻にしむかな獄の昼すぎ

獄窓50

裁判所帰り冬の夜の電燈暗き牢獄に下り立てば中天に懸る三日月寒し

獄窓51

冬の夜の電燈暗き牢獄にロメオとジュリエットの恋物語読む

獄窓52

寂寞は獄を領しぬ冬の夜に老ひし女看守の靴音寒し

獄窓53

獄衣着て唖の女囚は働けり音なき世にも悩みはあるか

獄窓54

窃盗は恥には非ずなど云ひつひそかに覚ゆる蔑みの心

獄窓55

真白なる朝鮮服を身に着けて醜き心をみつむる淋しさ

獄窓56

風よ吹け嵐よ吠えよ天地を洗ひ浄ひめよノアの洪水

獄窓57

我が霊よ不滅なれなど希ふかな閉し込められの獄に居る身は

獄窓58 手紙17

肉と云ふ絆を脱し我が霊の仇を報ゆる姿など思ひて

獄窓59

さりながら我が霊滅び人の世の醜と手を切る其れもまた好し

獄窓60 雑詠26 手紙13

生きんとて只生きんとて犇めき合ふ娑婆の雑音他所事に聞く

獄窓61

光こそ蔭をば暗く造るなれ蔭の無ければ光又無し

獄窓62

照る程に蔭濃く造る××我は光を讚むる能はず

獄窓63

何処やらの大学生と議論した夢みて覚めぬ獄の真夜中

獄窓64 手紙23

白き襟、短き袂にみだれ髪われによく似し友なりしかな獄窓

獄窓65

些細なる鼻風邪ひきても医者を呼ぶブルには薬は用のなきもの

獄窓66

薬売るは貧乏人の搾取なりなど我云ひ張りぬ湯に行きがてら

獄窓67 手紙25

友と二人職を求めてさすらひし夏の銀座の石だゝみかな

獄窓68 手紙24

今はなき友の遺筆をつくづくと見つゝ思ひぬ、友てふ言葉

獄窓69

口吟む調べなつかし革命歌彼の日の希ひ淡く漂ふ

獄窓70

彼の日には赤き血汐に胸燃えて破るゝなどゝは思はざりしを
25_NEW

獄窓71

凧のごと黒き糸をば脊につけて友かなしくも巷さすらふ

獄窓72

獄に病む我を護れる汝が思ひ早く癒えんと我は誓はん

獄窓73 雑詠15

友の服は破れ我に白き襟番号かなしきまどいよ予審廷の昼

獄窓74 雑詠14

ぐんぐんと生ひ育ち行く彼の友と訣るゝ日近し我のかなしみ

獄窓75

今日はしも我等の為に同志等が闘ふ日なり雨晴れよかし

獄窓76

講演会集ふて叫ぶ若人の群を思へば我も行きたし

獄窓77 雑詠5

一度は捨てし世なれど文見れば胸に覚ゆる淡き執着

獄窓78

黒雲は渦巻き起ちて天つ日を覆?いて暗し夕立の前

獄窓79 雑詠13

去年の今日我を見舞ひし友二人獄に逝きて今はいまさず

獄窓80 雑詠28 手紙6

ギロチンに斃れし友の魂か庭のつゝじの赤きまなざし

獄窓81

亡き友の霊に捧ぐる我が誓ひ思ひ出深し九月一日

獄窓82

谷あひの早瀬流るゝ水の如く砕けて砕く叛逆者かな

獄窓83

叛逆の心は堅くあざみぐさいや繁れかし大和島根に

獄窓84 大審院判決前日の歌1 1926.3.25

色赤き脚絆の紐を引き締めて我後れまじ同志の歩みに

 

獄窓に想ふ

獄窓85

金は有れど要り道は無し思ひつゝ買ふて見たり新らしきペン

獄窓86

我が欲しき紙は無かりき田舎町友を離れし淡きさびしさ

獄窓87

ちくちくと痛む瞳をしかめつゝペンの歩みを追ふもかなしき

獄窓88

縁無しの金蔓眼鏡もあながちに伊達ばかりにはあらざりしかな

獄窓89

誰彼の年を数えて自の子供らしさに気休めを云う

獄窓90

ひそうなる誇りも覚ゆ仲間では一ばん年の若き己を

獄窓91

店あらば一度に年を五ツ六ツ買入れんなど思ふをかしき

獄窓92

我が心嬉しかりけり公判で死の宣告を受けし其の時

獄窓93

嘗めて来し生の苦杯の終りかななどと思はれてそゞろ笑なれき

獄窓94

斯程までかなしき事はなかりけり××とやら沙汰されし時

獄窓95

何や彼やと独り喋りて?がりしいとそゝかしき看守長もありき

獄窓96

とりどりに的を外れし想像で推し量られし我のさびしさ

獄窓97

これと云ふ望みも無けれ無期囚のひねもす寝ねて今日も送りつ

獄窓98

思ふまゝに振舞ふてあり行きがけに強くもあるか無期囚の身は

獄窓99

今日もまた独り黙しつ寝しあればかうもり飛び交ふ夕暮れの空

獄窓100

独り居る春の日永し監獄に繰り返し読むスチルネルかな

獄窓101

春の夜の空は独りで小雨降る遠き水田に蛙鳴くかも

獄窓102

ふらふらと床を脱け出し金網に頬押しつくれば涙こぼるゝ

獄窓103

六才にして早人生のかなしみを知り覚えにし我がなりしかな

獄窓104

意外にも母が来りて郷里より監獄に在る我を訪ねて

獄窓105

詫び入りつ母は泣きけり我もまた訳も判らぬ涙に咽びき

獄窓106

逢ひたるはたまさかなりき六年目につくづくと見し母の顔かな

獄窓107

他の意など何かはせんと強がりの尚気にかくる我の弱さよ

獄窓108

ヴワニティよ我から去れと求むるは只我あるがまゝの真実

獄窓109

此の町の祭礼ならんけだるくも太鼓は響く春の夜すがら

獄窓110

暗き夜に山吹咲きぬあざやかに獄に我が見る夢の如くに

獄窓111

一夜ならで我が夢永久に覚むるなと希ふて寝る心かなしも

獄窓112

朝来れば此の屍に意識戻り鉄格子見ゆ暗く明るく

獄窓113

雀鳴く?き心の朝あけにふと思はるゝ同志の事ども

獄窓114

訣るゝがいと辛かりきいや増しに同志恋ふ思ひが胸に募りて

獄窓115

何がなと話し続けの共に居る時延ばさんと我は焦りき

獄窓116

唯一人女性にてある此の我は四年前から監獄に在り

獄窓117

笑ふこといとまれなりき又しても思ひ出さるゝBの面影

獄窓118
25朝日記事_0003
我十九彼二十一ふたりとも同棲せしぞ早熟なりしかな

獄窓119

家を出て彼を迎えに夜更けたる街を行きたる事もありけり

獄窓120

余りにも高ぶりしかな同志にすら誤られたるニヒリストB

獄窓121

敵も味方も笑はゞ笑へ××××我悦びて愛に殉ぜん

 

「補遺」 黒色戦線社版『獄窓に想ふ』

補遺1

今宵また鉄窓に見る満月の何故かは知らぬ色赤ふして

補遺2

彼もなせしか我にもありき彼の部屋に彼の友とせし大人びし真似

補遺3

人力車梶棒握る老車夫の喘ぎも嶮し夏の坂道

補遺4

人力車幌の中には若者がふんぞり返って新聞を読む

補遺5

資本主義甘く血を吸ふかうもりに首つかまれし労働者かな

補遺6 =手紙5

補遺7

秋たけし獄舎はかなし夜ごと夜ごと鈴虫の音の細ぼそり行く

補遺8

語れかし我にも情けあるものを汝が胸のかなしきひめごと

補遺9

クロバアをレターに封じ友に送るたはぶれのごと真剣のごと

補遺10

たはむれかはた真剣か心に問へど心答へずにっとほほ笑む

補遺11

まじまじと「人」をみつめて憎しみに胸燃やしつつむせび泣く我

補遺12 =手紙14

補遺13

踏みすくみ我は坂道を登り行く足下暗し理智の月影

補遺14

黙々と悩み多げに獄衣きて唖の女囚は働きてあり

補遺15 =手紙20

補遺16

雪降ればどぶも芥も蔽はれて白き仮面は嘲りげに笑ふ

補遺17

霊と肉の二つの心のいさかひを持つこと悲し今の我が身は

補遺18

ペン買はんいやそれは済まんなどと又しても二つの心つかふ苦しさ

補遺19

笛喇叭豆腐屋の鈴にレールの軋り獄に想ふ娑婆の雑音

補遺20

内容はとにも角にも門札は「刑務所」と書く今の監獄

補遺21

彼なりき彼の木賃宿の片隅に国家を論ぜしSにてありき

補遺22

Aと言えばBととらるる此の頃よ胸もて知りぬ理解されぬ悩み

補遺23

彼の友が薬売らんと言ひ出でしを反対せしは我なりしかな

補遺24

同志てふ言葉を他処に権力の腕に抱かれ友は逝きけり

補遺25 =手紙18

補遺26 =手紙22

補遺27

「ふみちゃん」と友は呼ばはり鉄格子窓に我も答へぬ獄則を無視して

補遺2830朝日

この獄に友十八名も居ると言ふ便りを読みし或日の夕暮

補遺29 =手紙8

補遺30

文見れば又もや人は越してありぬ風の吹くままさすらひの子よ

補遺31

ダイナマイト投ぐる真剣さもち床の上に彼はぶちまけぬ冷えし紅茶を

補遺32

飲み余せし湯を投げつるにや身構ひしあはれ陰謀に破れし男女

補遺33

塩からきめざしあぶるよ女看守のくらしもさして楽にはあらまじ

補遺34

手足まで不自由なりとも死ぬといふ只意志あらば死は自由なり

補遺35

さりながら手足からげて尚死なばそは「俺達の過失ではない」

補遺36

殺しつつなほ責任をのがれんともがく姿ぞ惨めなるかな

補遺37

囚の飯は地べたに置かせつつ御自身マスクをかける獄の医者さん

補遺38

皮手錠はた暗室に飯の虫只の一つも嘘は書かねど

補遺39

在ることを只在るがままに書きぬるをグズグズぬかす獄の役人

補遺40

言はぬのがそんなにお気に召さぬならなぜに事実を消し去らざるや

補遺41

狂人を縄でからげて病室にぶち込むことを保護と言ふなり

 
自殺記事朝日
 

手紙六月1

地球をばしかと抱きしめ我泣かん高きにいます天帝の前

手紙六月2

ころころと蹴りつ蹴られつ地球をば揚子の水に沈めたく思ふ

手紙六月3

水煙揚げて地球の沈みなば我ほゝえまんしぶきの蔭に























芙江


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